昨年、当社の社外取締役に就任して、一年が経過しました。私の経歴を申し上げると、銀行員として40年間経験を積んできました。具体的には、審査、営業に加えて、人事や内部統制等も担当してきました。
社外取締役としての役割としては、財務戦略、投資戦略、人的資本経営や内部統制等に対するチェック機能を発揮し、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を図ることができるように経営を監督すること、と認識しています。監督といっても決して上から目線ではなく、経営に寄り添いながら堅実な守り(リスクヘッジ)だけでなく、適切な攻め(リスクテイク)の助言・アドバイスも行っていくという意味です。社内のしがらみ(常識)にとらわれず、経営戦略を部分最適ではなく全体最適で考えるようにしています。また、銀行員としての知見を活かし、投資家目線もしっかりと意識して、当社の目指す方向に対して客観的な立場から発言していくことで、貢献したいと考えています。
私は弁護士として27年目となり、上場企業の社外役員に就任して21年超の経験があります。その中で弁護士業務も含めて、さまざまな業種、規模の企業・法人のコンプライアンスやガバナンスに関与してきました。当社の社外取締役としても、コンプライアンスやガバナンスはもちろんのこと、グループ企業理念、当社が長い歴史から積み上げてきた「信頼」といった企業文化がその根幹として大事であると感じており、当社が持続的成長と社会課題の解決を追求していくために、サステナブル経営に関する仕組みづくりに貢献していきたいと考えています。
私は、電力会社で主に環境部門を経験した後、独立し、複数のシンクタンク、大学の客員教授、政府委員などを務め、環境・エネルギー政策の研究・政策提言などを行っています。現在、当社においては環境・エネルギー分野は経営の軸となっているため、国際的な動向も踏まえた長期的な視点を経営に対して、提供していくことが、社外取締役としての一つの役割と捉えています。
私がこの一年で当社の経営、ガバナンスについて最も印象的に感じたのは、経営陣の熱意あふれる戦略への取り組みや、取締役会での議論が非常に活発であることでした。当社のガバナンス体制は、執行と監督が上手に機能し、しっかりとガバナンスが利いていると捉えています。経営トップの気風などによる統制環境やコーポレートガバナンスは十分に機能しており、内部監査も往査などをしっかりと行っている印象です。
課題があるとすれば海外子会社を含めたグループガバナンスにあると捉えています。当社の社名は、日本紙パルプ商事ですが、グループの半分が海外企業で、グローカルを標榜し、経営も現地にある程度任せています。しかも、今後も当社グループの成長戦略の中では、海外でのM&Aが非常に重要であり、毎年数社程度が増えていくことが想定されます。基本的にはグローカル故に、グループガバナンスをどう利かせるかは非常に大きなテーマです。グループガバナンスの更なる高度化とグループシナジーの一層の発揮が、“紙、そしてその向こうに”というグループスローガンにつながっていくのではないかと考えています。
当社のガバナンスの特徴の一つとして、髙橋さんが評価されているとおり、取締役会と監査役会、内部監査部門との綿密な情報共有が強い連携を生み出している点を挙げることができます。監査役会では、常勤監査役と社外監査役が連携して運営され、適切な報告が取締役会になされています。さらに、内部監査室がグループ各社を訪問し、詳細な報告書を作成しており、その説明も定期的にあります。このように、当社グループの守りのガバナンスはしっかりと機能していると評価しています。
当社グループは持続的な成長に向けて、M&Aを活発化していますので、攻めのガバナンスも重要です。ここ数年で、国内外で新たにグループに入った会社が多くあり、それぞれグループ入りした時期も異なり、卸売もあれば製造もあるなど業種も広がっています。この点を踏まえ、守りのガバナンスにとどまらず、攻めのガバナンスとしてのグループガバナンスにしっかりと取り組むことが、当社グループの全体的な組織力の伸長や持続的な成長につながると考えています。
私は、ガバナンス体制というよりも企業文化ですが、素直で正直な、真面目な会社だと思います。例えば、何か悪いニュースがある時、あるいは悪いニュースになる前の芽に気がついた時点で、取締役会の冒頭で渡辺社長から共有してくださいます。よい情報よりむしろ、悪い情報こそ共有しようという姿勢を感じます。
一方で、歴史もあるが故に同質性が高いと感じるタイミングがあります。投資家をはじめとするステークホルダーの代表として外部から来た私たちは「その考え方や取り組みは当たり前なのか?」などと感じる場合もあります。自分たちの常識が社会の非常識にならないよう、外部とのつなぎ役として社外取締役が貢献しなければならないと思っています。
当社の取締役会では、社内・社外取締役の区別なく、自由闊達かつ実質的な議論がなされています。その中で、当社グループのサステナブルな成長に向けて、「OVOL長期ビジョン2030」(以下、長期ビジョン)、「中期経営計画2026」(以下、中計2026)、経営課題などについての議論が行われています。例えば、今回の中計2026の策定にあたっては、まず数値目標を達成した前中計の振り返りがしっかりとなされ、策定背景からバックキャスト思考の目標設定までの討議に時間を投じました。
鈴木さんのお話にあるとおり、当社の取締役会は、企業価値向上に資する活発な議論がなされており、取締役会はその役割を発揮していると評価しています。今回の中計2026策定に向けても、経営環境認識などの分析・検証がしっかりと討議されています。その中で、渡辺社長は中計2026に「魂を込めた」と言われた。これは経営者の意志が表れた、なかなか聞くことができない稀有な発言と捉えています。それだけに中計2026は、現場に落とし込んだとき、現実的な目標になるよう設定されており、今後の戦略実行に大いに期待しています。
中計2026に関しては、策定中に4~5回、進捗状況を説明して頂きました。バックキャストで考える、つまり長期ビジョンを目指して、現時点から、何を変革させ、成長を実現していくのか、その実質的な道筋が重要です。渡辺社長は、今回、そこの仕組みづくりに相当なリーダーシップを発揮され中計2026をつくり込みました。その結果、すばらしい中計が出来たという認識を持っています。
中計2026において注力すべき点は、連結経営への意識変革と人材の強化の2点であると私は考えています。まず、連結経営への意識変革です。これは、先ほどのグループガバナンスの更なる高度化と重なる話でもありますが、グループ従業員一人ひとりの連結経営意識を高めていくことが、中計2026の3つの基本方針の一つとして掲げる「グループ内外のコミュニケーションを拡充し機能やサービスなどの提供価値を圧倒的に高める」を実行していくための要になると考えています。次に、人材の強化、言い方を変えれば、人的資本投資ですが、これも中計2026における最重要課題の一つです。グループ従業員をどうスキルアップさせ、どのように人的資本価値を高めていくかいうことです。例えば、本社から海外の子会社に出向させたり、海外の役員を務めさせることも考えられます。逆に海外の経営幹部を本社に呼ぶということも考えられる。そういった海外も含めた人材のローテーションも必要です。これらがゆくゆくは経営人材の育成、ひいては役員のサクセッションプランにもつながっていくと思います。
一方で、私たち社外取締役は、まだまだ当社の人事制度の中身について知らないことが多々あります。例えば、人事体系や、給与・賞与体系などの人事制度の詳細を知りません。今後、当社グループが人的資本経営を推進していくために、テーマを絞って取締役会以外の場で議論をしていくことも必要ではないかと考えています。
人的資本に関しては、ゼネラリストを育てるかスペシャリストかという問題もあると思います。どちらも一長一短ですから、やはり、日本紙パルプ商事グループとしての人的資本経営の在り方から考えるなど、全体戦略の中で人事施策を考えなければいけない話だと思います。
取締役会の実効性評価については、当社は毎年、各取締役による取締役会の自己評価に加えて各監査役の意見も求め、これらに基づき取締役会の実効性評価を行っており、取締役会の実効性はしっかりと確保されていると考えています。一方で、客観的に実効性を検討していくことは重要です。例えば、現在の実効性評価アンケートもよく練られたものですが、毎年繰り返していけば常識化していきます。さらに、取締役会運営においても、第三者から見た場合は、「結論のみが先行している」「フリーディスカッションの時間が少ない」などの意見が出てくる可能性も考えられます。ガバナンスにゴールはありませんので、取締役会を活性化させるという意味では、第三者評価などは将来に向けて考えていくテーマであると捉えています。現時点では、拙速に始める必要性は感じておらず、まずは、私たち社外取締役が外部目線の役割を担うことを徹底していくことで実効性を高めていきたいと考えています。
現在、当社の取締役は7名で、そのうち3名が社外取締役であり、企業経営の経験者や環境・エネルギー分野の専門家、弁護士といった多様な視点から重要事項への意思決定を行うことで、社内取締役の知見だけで判断することがないよう、取締役会としての役割と責務を実効的に果たしていると評価しています。
また、取締役会の実効性を高めていくために、当社では、事前説明会を概ね取締役会の2日前に開催しています。昨年から、議案を担当する執行役員から直接説明いただく方法に変更し、施策の背景事情も含めて、かなり詳細に情報共有がなされています。このしっかりとした事前説明があるため、取締役会では、経営陣に直接問うべき重要事項に集中できています。
この事前説明会は有効に機能しています。以前の取締役会では、議題の背景からの説明に時間が割かれる場面もありましたが、現在は、内容の濃い事前説明会を踏まえ、取締役会では各議題の本質部分の議論が活性化されています。さらに、時間も短縮され、多くの議題を検討することが出来ており、取締役会の効率化が図られています。
取締役会の議論を、グループ全体に落とし込んで、自発的な変化につなげていくことが大事だと思っています。内部から、変わろう、変えようという自発的なムーブメントが起きるようにしていきたい。社外取締役が第三者として申し上げることがきっかけとなって、内発的な変化に対して正の作用を及ぼしていけたらと思っています。
また、取締役会の実効性の前提ともなる取締役会の多様性も、当社は十分担保されています。それはスキルマトリックスからも読み取れます。現在の当社の取締役会のスキルセットには重要な課題はなく、今すぐ新たな動きは必要ないと捉えていますが、今後、当社グループがサステナブルな成長を実現していくためには、重要な論点であるため、引き続き議論していきたいと考えています。
当社の場合、スキルの面からも、取締役会構成は極めてバランスがいいという印象です。また、女性取締役の比率も歴史のある会社のなかでは非常に高いと思います。また、スキルマトリックスについては、一般的には該当部分を示すのみの企業が結構多いなかで、当社は、これらのスキル項目が、当社グループの成長ストーリー実現に向けて必要であるところも言語化されています。単に開示するだけでなく、こういう言語化がとても大事だと思います。これがあるおかげで我々も何を求められているのかよくわかります。
サステナビリティの観点からは、やや一般的な話になってしまいますけれど、やはり個社にできることは極めて限られています。だからサプライチェーン全体で、長期ビジョンのもとで共創していくことが、これからは重要です。当社は歴史ある商社で、多様なステークホルダーを「つなぐ」立場です。果たすべき役割は大きいと思います。そうしたところに立ち返ってステークホルダーと共創し、大きなビジョンに向かっていくことが重要ですし、当社グループは極めて前向きに取り組んでいると認識しています。ただ、当社は素直で正直、真面目な会社で、そういう社風であるが故に、環境変化に対し柔軟性や強靱性をどこまで持てるかが、これからの勝負であると捉えています。この変化の激しい時代、ステークホルダーの皆様の代表として機能するような社外取締役でありたいと思っています。
私は、当社グループは社会価値と経済価値が両立しやすい業態だと思っています。例えば、紙によるプラスチック代替への貢献、紙やプラスチックのリサイクル事業などがあります。そうした価値や、これまでの伝統を活かしたネットワーク、多様なグループ会社の総合力を、あらゆるステークホルダーに機会あるごとに地道に伝えていくことを引き続き期待したいです。
社外取締役として、今後も、長期ビジョンの実現に向けた中計2026のモニタリングをしっかりと行っていくことを、ステークホルダーの皆様にはあらためてお伝えします。また、当社グループはサステナブル経営を掲げています。それがしっかり実践されているのか、なるべく現場に近い情報に触れながらモニタリングしていきたいと思っています。昨年は物流の施設を視察する機会などもあり、今後も現場と中計の目標がつながっているのかというところに、特に意識していきたいと思います。
これまでの約180年の歴史に加え、100年後、200年後も当社グループ会社が存続・発展していくためには、サステナブル経営が重要です。そして、そのためには人的資本経営というのが基盤として必要であり、これを強化することによって、よりよいサステナブル経営を生み出し、それが、また人的資本経営の強化に循環していきます。この好循環を生み出せるよう、経営の監督という立場から、一緒に歩んでいければと思います。また、日本の資産運用立国化の進展に伴い、ますます「資本コストと株価を意識した経営」が求められることになりますので、投資家目線での経営監督機能も自分なりに果たしていければと思います。