当社グループは、気候変動が森林資源の減少や地球温暖化によるリスクの増加、財務的負担を引き起こす可能性があると認識しています。また、サプライチェーン全体での温室効果ガス削減を企業の責務ととらえ、気候変動をマテリアリティとして特定しています。気候変動への対応は、温室効果ガス排出量が多い製紙加工事業を中心に従来から省エネルギー化および非化石由来のエネルギーを活用し温室効果ガスの排出量削減に取り組んでいますが、2024年に策定したグループ温室効果ガス排出量削減目標に基づき、2050年カーボンニュートラルを実現するべく取り組みを強化していきます。
当社グループは、気候変動への対応がグループ全体として喫緊の課題であると認識し、2021年6月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言へ賛同、「TCFDコンソーシアム」に参加しました。以降、気候変動が当社グループ事業に及ぼすリスクと機会についてシナリオ分析を行い、紙・板紙卸売、製紙加工、環境原材料、不動産賃貸、各々の事業セグメント※についてTCFDが推奨する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」に基づき、開示しています。
当社グループは、「サステナビリティ基本方針」のもと、気候変動への対応、温室効果ガスの排出削減への取り組みをより一層推進し情報開示を進めていきます。
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は、金融安定理事会(FSB)により、気候関連の情報開示および金融機関の対応をどのように行うかを検討する目的で設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース」です。世界的な課題である気候変動は、企業にとっても深刻な影響をおよぼすファクターになりつつあり、中長期的な事業活動を行う上での“リスク”あるいは“機会”へと変化しています。このような状況下、企業が持続的な成長を果たすためには、気候変動というファクターを経営戦略に織り込む必要が出てきています。TCFDの最終報告書では、気候変動によるリスクおよび機会が経営に与える財務影響を評価し、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4項目で開示することを推奨しています。
TCFD賛同企業や金融機関等が一体となって取り組みを推進し、企業の効果的な情報開示や、開示された情報を金融機関等の適切な投資判断に繋げるための取り組みについて議論する目的で設立された組織です。
当社は、サステナブル経営をより積極的かつ能動的に推進していくことを目的として「サステナビリティ戦略会議」を設置しています。「サステナビリティ戦略会議」は、取締役会の監督のもと、グループ全体の気候変動に関する方針などの策定や戦略立案、ESG課題の解決・目標達成に向けたマネジメントを所管しています。「サステナビリティ戦略会議」の議長は、代表取締役社長が務め、気候変動に関わる経営判断の最終責任を負っています。同会議にて検討、協議された事項の進捗状況などは、定期的に取締役会に報告されるとともに、重要な事項については取締役会で決議されます。取締役会にて決議された事項については、「OVOLサステナビリティ推進委員会」「OVOL環境・安全委員会」に指示され、グループ内各事業拠点にて実践する体制としています。
当社グループは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIEA(国際エネルギー機関)などの専門機関が作成した、気温上昇が1.5℃(2.0℃)に抑制される場合と4℃以上になる場合の2つのシナリオを用いて、紙・板紙卸売、製紙加工、環境原材料、不動産賃貸の4つの事業分野について、気候変動に伴うリスクと機会の抽出を行いました。気候変動がもたらすリスク・機会は、低炭素社会への移行に伴うリスクと物理的な影響に分類され、これらのリスク・機会を事業戦略に織り込むため、財務影響を短期・中期・長期の観点で評価しました。
分類 | 当社への影響 | 対応策 | 影響度 | ||
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リスク | 移行 | 政策・法規制 | 製紙事業における、炭素税の引き上げに伴う操業コストの著しい増加 |
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大 |
評判 | 気候変動対策の遅れに伴う企業価値の下落、ステークホルダーの信頼失墜などによる、売上収益の減少、資金調達への影響、ブランド力の低下 |
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中 | ||
物理的 | 急性 | 風水害による拠点、設備、在庫、不動産物件などの甚大な被害 |
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中 | |
風水害によるサプライチェーンの途絶に伴う事業停止、および売上収益の減少 |
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中 | |||
慢性 | 海面上昇による、臨海拠点の高潮など浸水被害の影響 |
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中 | ||
機会 | 市場 | 電化の進展に伴う電子部品関連機能材の需要増による業績への寄与 |
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中 | |
森林認証紙・再生紙など環境配慮型製品の需要増による業績への寄与 |
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中 | |||
脱プラスチック化の進展に伴う紙製品の需要増による業績への寄与 |
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中 |
財務インパクトに関するシナリオ分析の結果、炭素税の導入が当社グループの製紙事業を中心に大きな影響を与えると想定しています。一方、温室効果ガス排出量の削減を推進することによりその影響を軽減できると考えています。
物理的リスクでは、洪水・台風といった異常気象による国内グループ主要拠点の被害想定額は、1.5℃(2℃)および4℃シナリオで2~6億円程度と試算しています。なお、当社グループのお取引先が甚大な被害を受けた場合、サプライチェーンにおける工場の操業停止や製品および原燃料などの輸送が寸断される可能性があり、試算額以上の被害が想定されます。
項目 | リスク | 分析内容 | 財務インパクト(2050年) | |
---|---|---|---|---|
4℃シナリオ | 1.5℃(2℃) シナリオ |
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炭素税 | 移行リスク | 炭素税導入による影響 | - | -66.3 億円 ※2 |
電力価格 | 移行リスク | 電力価格変化による影響 | +2.3 億円 | -2.9 億円 |
洪水被害 | 物理的リスク | 年平均の洪水被害額 | -5.1 億円 | -1.7 億円 |
高潮被害 | 物理的リスク | 年平均の高潮被害額 | -0.3 億円 | -0.1 億円 |
営業停止損害(洪水) | 物理的リスク | 年平均の営業停止損害額(洪水) | -0.8 億円 | -0.3 億円 |
移行リスク | IEA NZE | Net Zero Emissions by 2050 Scenario (NZE) CO2排出量を2050年までにネットゼロにするシナリオ |
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IEA SDS | Sustainable Development Scenario (SDS) パリ協定で定められた「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という目標を完全に達成するための道筋を分析したシナリオ |
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IEA APS | Announced Pledges Scenario(APS) 未実施のものも含め政府の発表済み公約が仮にすべて実施された場合を想定した、各国の野心を反映したシナリオ |
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IEA STEPS | Stated Policies Scenario(STEPS) 世界で公表・実施されている政策イニシアティブなど、各国政府の現在の計画を組み込んだシナリオ |
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IEA B2DS | Beyond 2 Degrees Scenario (B2DS) 2060年での気温上昇が1.75℃を50%の確率で超えないシナリオ |
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物理リスク | IPCC RCP2.6 | 産業革命前に比べて2℃程度の上昇が見込まれるシナリオ |
IPCC RCP8.5 | 最も気温上昇が高い4℃シナリオ |
項目名 | 基準 | 単位 | 現在 | 2050 | 出典 | ||
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4℃ | 2℃ | 1.5℃ | |||||
炭素価格 | 先進国 ネットゼロ宣言あり |
USD/t-CO2 | 0 | 0 | 200 | 250 | IEA WEO 2022 |
電力価格 | 日本 | USD/MWh | 216 (2018) |
203 (2040) ※ |
232 (2040) ※ |
- | IEA WEO 2019 |
洪水発生倍率 | 日本 | - | - | 4 (2040) ※ |
2 (2040) ※ |
- | 気候変動を踏まえた治水計画のあり方提言(国土交通省) |
高潮発生倍率 | 日本 | - | - | 2 | 1.2 | - | 気候変動影響評価報告書(環境省) |
「サステナビリティ戦略会議」は、グループ全体での気候変動に関するリスク・機会の特定、対応計画の策定、サステナビリティ推進本部を中心とした対応組織への指示、進捗の管理を行い、取締役会に報告します。取締役会は報告内容について承認もしくは改善指示を出し、適切なリスク管理が行われていることを監督します。また、サステナビリティ戦略会議にて審議された気候変動関連のリスク事項は、「リスク管理委員会」「OVOL環境・安全委員会」「OVOLサステナビリティ推進委員会」に指示され、グループ全体のリスク管理に反映されます。
気候変動への対応として「日本紙パルプ商事グループ温室効果ガス排出量削減に関する中長期目標」を策定し、グループ全体にて、バイオマスボイラー、再生可能エネルギーへの切り替え、DCS活用などによる生産効率の抜本的改革などSCOPE1・2の削減に向けたさまざまな施策に取り組んでおり、その結果2023年度のSCOPE1・2は、2019年比で約34%の削減を実現しました。なお、SCOPE3については、2022年度より日本紙パルプ商事単体から連結子会社へ対象範囲を拡大しており、今後SCOPE3においても削減の取り組みを推進していく予定です。
[関連リンク]
再生可能エネルギーによる発電
グループ内製紙会社への電力・蒸気の供給を担うバイオマス発電事業を運転開始して以来、社会的要請が高まっているクリーンで安全な電力の安定供給に貢献する発電事業を行っています。2016年に岩手県野田村において、木質バイオマス発電所(14MW)を稼働。地域行政と連携し、地元産業の活性化につながる公益性の高い事業を展開しています。また、北海道釧路市では太陽光発電(20MW)による、電力供給を行っています。
2018年には、マレーシアにおいてPKS※の集荷と輸出を行うOVOL New Energyを設立し、バイオマス燃料を安定供給する体制を構築しています。
※アブラヤシの実の種殻
グループ各社における再生可能エネルギーの導入
2023年度は、段ボール原紙・印刷用紙を製造するエコペーパーJPおよび段ボール原紙を製造する大豊製紙が温室効果ガス排出量削減に向けて、再生可能エネルギー由来の電力を導入しました。両社ともに、これまでも木質バイオマス発電の活用などによりCO2削減を推進してきましたが、その取り組みを推し進め、購入電力を水力由来の電力に切り替え、エコペーパーJPは50%、大豊製紙は100%の再エネ化を実現しました。
また、現在、グループ各社において、電動トラックや電動フォークリフトおよび燃料電池車の導入を進めており、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを推進しています。
単位:万t-CO2
項目 | 2022年度 | |
---|---|---|
購入した製品・サービス | 448.8 | |
資本財 | 1.0 | |
エネルギー関連活動 | 4.7 | |
輸送、配送(上流) | 89.0 | |
廃棄物 | 0.1 | |
出張 | 0.0 | |
従業員の通勤 | 0.2 | |
リース資産(上流) | - | |
輸送、配送(下流) | 1.3 | |
販売した製品の加工 | 72.6 | |
販売した製品の使用 | 0.7 | |
販売した製品の廃棄 | 94.6 | |
リース資産(下流) | 2.5 | |
フランチャイズ | - | |
投資 | - | |
SCOPE3合計 | 715.6 |